Arenberg 主筆の小俣は日本最長のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」に大会広報チームの一員として8日間帯同中。昨年に続いての旅、ステージレースならではの移動しながらの日々とロードレースを絡めた書き物ができたらよいと思っていたこともあり、とりとめも無く書き留めてみます。
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5月23日(金)
誰に頼まれたわけではないこの雑記だが、もともと遅筆なこともありステージレースの毎日の中で書くのが大変になってきた。どうしても夜の間に書けず、やや早起きをして一昨日のステージのことを書いていたら、あやうく出発時間に遅刻するところだった。朝食はとりそこねた。こりゃいかんわい、とクルマに乗り込むと、同僚のフォトグラファーが開口一番に「ブログは面白かった」と言う。レースレポートっぽくなくて面白かったらしい。このところは肝心の公式レースレポートに力を注いでいるので、そちらを褒めてほしかったのだが、読んでいないという。読め。とはいえ、大変だがこの雑記を続けるモチベーションは保たれた。
昨日、御殿場までの移動中に富士山が見えると車中は沸いた。何度も見たことがあるはずなのに(なんなら自宅近くの散歩コースからだって見えるのに)、富士山を最初に目にした時の気持ちの昂りは抑えられない。象徴とはそういうことなのかもしれない。この春にどハマリした「ホットスポット」の舞台でもある富士吉田の町並みを高速道路から眺めつつ、「おれ、この仕事が終わったら聖地巡りするんだ……」と叶わなさそうな願いをつぶやく。
さて富士山ステージ。富士スピードウェイ西ゲートでのスタートも昨年同様。この日は超絶ヒルクライムレースということもあり、選手たちには検車が義務付けられていて、しばしそれを見る。今日注目のひとり金子宗平(日本ナショナルチーム)は特別なスプロケットを装着し、「ボトルケージもひとつ外してきました」と徹底的な軽量化にこだわりバネ秤の計測で6.85kg。レギュレーションの6.8kgに迫る軽量バイクに仕上げてきた。
どの選手のバイクもそこまでの軽量さではないため、一瞬軽すぎるのではないか? と審判や周りにいたメディアは固唾を飲んだが、+500gは本人的には安全マージンのようだった。「優勝したら山頂でも検車があるからね」と審判の方は言い添えた。それは中立であるはずの審判員の、金子への期待と応援を込めたささやかな一言。
ウ|ソ
昨年は本を売ったこともありスピードウェイに留まったが、フィニッシュ後の選手に話を聞きたかったので今年は5合目へ。このところ野鳥観察を日々の歓びとしている身には、あざみラインの鳥の壁に心が温まる。また自転車で来たいな、と思った矢先、メディアカーは急勾配にエンジン音を悲痛なまでに響かせつつえっちらよっちらと登り始めて、……止めておこうか、と思い直すのだった。
5合目は軽い霧雨で、ほとんど富士山頂は霧の中。やや肌寒い。レースがやってきて、30分ほど賑やかになる。このステージはロードレースとしてはかなり特殊なものではあるけれど、観戦にはいいと思う。激坂にあえぐ選手たちの走りや、後ろ半分の位置で走る選手の様々な走りを観ることができる。ある者は限界ギリギリになり、ある者は努めて温存しながら走り、あるものはウィリーなんかをこの激坂で披露する。これは決して映像に写ってこない超級山岳の側面であって、ジロやツールでも見られるもの。山岳ステージは最後の一人まで見てこそ、なのである。
3位のダイボールはJCL TEAM UKYO勢に脱帽しつつも、さっぱりした表情でインタビューに応えてくれた。「今日できるベストがステージ3位だった」と、一定の満足は得ている様子。一方アグレッシブな走りでレースを動かしたヨハネス・アダミエツは高い標高とメカトラで自分のレースができず、悔しさを表情ににじませながらレースを振り返ってくれた。「登りの途中までは調子が良かったのに、フィニッシュが近づくにつれ力が入らなくなった。高い標高に身体が慣れていないからだろう。肝心なところでチェーン落ちもあり、難しかったけれど攻撃的なレースができたからよかったかな」。
レースが終わり、表彰式が終わると、次のステージへの移動である。翌日は相模原ステージということで、神奈川県まで移動。橋本駅近くのホテルは昨年も泊まったところ。ホテルに関してはロビーよりも駐車場でその場所を思い出す。それにしても繁華街というか、ここまでTOJで巡ってきたどの街よりも都会で雑然としている。これまで見ていた夢が急に現実に引き戻された気分になるのは、毎年のこと。
せっかく街なのだから、クラフトビールでも飲みに行くかとなるが、適度な都会であることろの橋本の街には探した限り適度な店が見当たらない。昨年も同じ行動をとって、見つけられなかった。じゃあサイゼリアでアロスティチーニでも食うか、こないだのジロで話題になったしこの雑記のネタにもなるから、と店に向かうと大混雑。閉口して昨年も行ったくら寿司に。お寿司は美味しいが、なんかこう、海をほとんど見てこなかった旅の中で海鮮をいただくというのも、ちょっと違和感がある。「パンガシウス」という魚を見てこれはナマズだよ、とひとしきり盛り上がったのがハイライト。寿司のネタが雑記のネタになった……
活パンガシウス
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富士山ステージのレースレポートを書いています
Tour of JapanのInstagram
※同僚の辻啓・S子さんの写真をアップしています