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日本横断レース帯同記 美濃

Arenberg 主筆の小俣は日本最長のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」に大会広報チームの一員として8日間帯同中。昨年に続いての旅、ステージレースならではの移動しながらの日々とロードレースを絡めた書き物ができたらよいと思っていたこともあり、とりとめも無く書き留めてみます。

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5月21日(水)

昨日は静寂に包まれていたうだつの上がる町並みが、賑わっている。TOJがやってきたのだ。道幅が広くないことも手伝って、このスタートは活気と熱気で満ちている。

同僚のフォトグラファーたちは、毎年同じコースを走るTOJにおいていかに新しい写真を撮るか、そして同時にいかにお決まりの写真を撮るかに腐心している。わざわざ自転車競技の、それもグランツールの写真を夢見てこの仕事を始めた辻啓とS子さんのような人たちは常に新しい写真を撮ることを歓びとしていて、すでに構図の決まった写真を撮ることに対してそこまでの情熱がないらしい。

それでも後で見てみたら、今年も「うだつのあがる町並み」の美しい写真が撮られていた。例年同じ構図かもしれないけれど、そこに写る選手は毎年違う。その記録の積み重ねには、独創的なレース写真とはまた別の価値もある。

そういえばフォトグラファーといえば、その同僚の一人に「君が書き始めているTOJの日記だけど、いなべのはレースレポートみたいでつまらない」と言われたのだった。面と向かってつまらんとは何事かとも思うが、思い返せばこちらも「定番」の画角で撮られた写真を、「素晴らしい構図ですね」とまるで賛意を示さず嫌味ったらしく言ってきたのだからおあいこである。

しかし人はこうした何気ない一言を引きずるもので、レースの内容に細かく立ち入って書くことはやめよう、と思ったのだった。ありがとう辻啓。

美濃ステージでSKE48の荒野姫楓さんと会う。先日のジロ開幕ステージで僅かな時間をご一緒したのだが、なにぶんグランツールの初日ということもあり、ばたばたしていてご挨拶が出来ていなかったのでちゃんとお話をする。しかし今をときめくアイドルに自分が認識されて、しかも本まで読んでくれているとは。不思議なものである。

ところで彼女を三人称で呼ぶ時、あるいは本人に呼びかける時に、なんてお呼びすればいいかわからない。愛称の「ひめたん」が正解なのだろうがどうも気恥ずかしい(人をニックネームで呼ぶのがあまり得意ではない)が、荒野さんというのも他人行儀な気がする。どうでもいい話だが、小俣はあまりニックネームで呼ばれる人生を送ってこなかったが、例外として一部地域でおまたんと呼ばれたことがあり、まだそれを使う友人がいる。ツアー・オブ・おまたん(仮)


この日も暑かった。このアイスが美味しかった。

美濃ステージといえば鮎である。フィニッシュ地点の美濃和紙の里会館の出店で一定金額以上の買い物をすると鮎の塩焼きが振る舞われるのだ。この鮎のいいところは、ただ美味しいだけでなく、配ってくれる漁協?の方たちが大変に鮎に愛情と自信を持たれていて、ぜひ食べてほしい、という気持ちが伝わってくること。昨日ブロンプトンで走ったコース上の橋から見た板取川には、なるほど無数の鮎が泳いでいて、一体どれだけの魚がいるのだろうと気が遠くなる。同時にだからこそ長良川で鵜飼の文化が発展したとも納得がいく。

レースは「定番」のスプリントステージになった……と思ったのだが、泳がされていたかに見えた逃げグループがまさかの逃げ切り。まさかの、と書いたがTOJでは意外と起こり得ることだ。昨年だって逃げ切りだったけれど、どうも近年のワールドツアーレースが平坦ステージでタイム差を許さず集団が逃げを締め上げる構図を度々見ていたせいで、平坦ステージの逃げは決まらないと頭が決め込んでしまっているらしい。

TOJでは、良くも悪くもワールドツアーレースのような展開にならない、ということを改めて認識しないといけない。

勝者は22歳の宇田川塁(愛三工業レーシング)。最終周回の登りで逃げグループから遅れたが、残り2kmで追いつき、そしてスプリントで勝ってみせた。新星の勝利に、会場が大きく湧いた。こういう瞬間があるから、ロードレースはたまらない。誰もに祝福された勝者は初々しいが、時間が立てばまた変わるだろう。レースを勝ち切れる星の下に生まれた選手というのはいるものだ。

スプリントに自信があるとインタビューでも語っていたが、自身を「スプリンター」と言いかけて止めた。チームの岡本隼や窪木一茂といった存在を前に、まだ自称するに早いと思ったのだろう。ロールモデルが身近にいる環境で、彼がスプリンターとして名をなす時が楽しみだ。

レースが終わって、次なるステージの舞台、長野県飯田市へ。道中、風景が少しずつ変わっていって山が深くなる。信州の雰囲気。何が、とは細かく言語化できないのだけれど……。

レポートを仕上げて恒例のブロンプトンライドへ。飯田市というところは、垂直の街であって、どう走ろうと登ることになる。前日の美濃のスピードライドでだいぶ疲れたので、リカバリーライドにしようと意見が一致する。17時頃ホテルを出て、ゆるゆると登り始める。

住宅街から山間部へ。たった15kmのライドで目まぐるしく景色が変わる飯田。途中で錦鯉を楽しんだり、まだ実のならないりんご畑を楽しんだりしつつ、山間の道を楽しむ。前日まで広大な水田地帯を走っていた身としては、こうした山間部だからこそ棚田という形でしか田んぼが作れなかったのだと納得感がある。

夜は焼き肉。昨年も来た店だが、メディアチームの誰もがこの日を楽しみにしていた。今回の旅で初めてチーム全員が揃っての食事となる。焼き肉は偉大だ。運ばれてくる肉に嬌声を上げ、口に運んでは幸せを噛みしめる。飯田は焼肉の街、これぞ旅の醍醐味。レースはちょうど半分。焼き肉が後半戦への活力とならんことを。

そういえば、大会公式のレースレポートのスタイルを変えた。レースのことはここで思う存分に書けることになったので、この日記では努めて雑感を書き連ねることができる。もうつまらないとは言わせないが、雑文とは常に面白いのかどうかという自問の繰り返しであって書いている本人が一番自信がない。

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