Arenberg 主筆の小俣は日本最長のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」に大会広報チームの一員として8日間帯同中。昨年に続いての旅、ステージレースならではの移動しながらの日々とロードレースを絡めた書き物ができたらよいと思っていたこともあり、とりとめも無く書き留めてみます。
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5月20日(火)
三重には足繁く(と言っていいだろう)通っているのだが、いなべ市に来るのは年に1回、TOJの時だけ。だからやっぱり、覚えていることと忘れていることがたくさんあるのだけれど、スタート地点のパン屋のことは覚えていた。あまり品があるとは言えないものほど印象に残るというのも、考えものだ。
スタート地点の阿下喜駅というのは、鉄道ファンには知られたナローゲージの路線の終着駅ということで、線路幅はどんなものかと覗いてみたが、そもそも日常線路というものに特別気を配っているわけではない身としてはちょっと見ただけでは違いがわからない。
スタート前に何人かの選手に話を聞く。個人的に総合優勝候補のひとりヨハネス・アダミエツ(レンベ・ラド・ネット)。昨年はプロチームのロットでジャパンカップにも参戦していた、ヨーロッパのレースでもしばしば名前を見ていた一人。今日はどう走る? という問いに、「いやー、他チームに知られたくないから教えられないよ(笑)」とはぐらかす。けれども、今大会を通して狙うは「総合表彰台」、と自身の実力とレースレベルを客観的に見ている様子。
レースがスタートしてからというもの、アタック合戦が激しい。この数年、いなべステージでは逃げ切りが決まっているし、昨年に至っては最終的な総合成績にも影響した。序盤のひとつのポイントとなるステージ、というのが選手やチームにとっての共通認識になっているように思う。メディアカーでコース一周するが、イナベルグを登ったあとは下り基調。道幅は広くないが下りで差をつけるのは難しそうだ。
スタート前に「今日は山岳賞を狙いたい」と隠さず教えてくれた山本元喜が有言実行の飛び出しを見せた。山岳ポイントのかかる2周目のイナベルグを前に4名がひとたび抜け出したが、山岳ポイントを前に吸収。結局山岳賞ジャージを着るニコロ・ガリッボが集団から飛び出して先頭通過を果たした。
3周目に、行かせてはいけない選手たちの逃げが決まる。先程のガリッボとアレッサンドロ・ファンチェル(JCL TEAM UKYO)、ルージャイのホプキンス、トレンガヌのブレンホイ、リーダージャージを着る岡篤志(宇都宮ブリッツェン)そしてアダミエツが入った。
正直、この日はこれで決まったかと思った。それは半分間違えていて、半分は当たっていた。
4周目に入るところで先頭の5名から41秒遅れで集団がやってきた。メイン集団は新城幸也がソリューションテックの面々を引き連れて牽引。かなりペースを上げている走りだった。たまたま隣りにいた別府匠さんが、「これは行かせちゃいけない逃げだから」という。この日いなべの会場にいた人は、新城のこの仕事ぶりを間近に見たことになる。それは価値ある瞬間だと、おそらくはそこまで遠くない未来に思うのだろう。
この逃げはこの周回のうちに集団によって引き戻された。
しかしいなべのコースは、展開が落ち着いたかと思えばイナベルグがやってくる。そして次の展開が生まれる。JCL TEAM UKYOのアラヤが今度は単独走を開始。この逃げは力強く、2周にわたって続いた。そして残り2周に入るところで集団が吸収。ここからペースを上げたのはファンチェルとガリッボのJCLコンビだった。
そしてイナベルグを終えて攻撃に出たミゲル・ハイデマン(レンベ・ラド・ネット)に、ファンチェルとブレンホイが合流。この動きが決定的になった。
最終周回のイナベルグでハイデマンが脱落。2名となった先頭だが、集団からはタイム差を保っている。反対にメイン集団は協力して追走体制をとることができず、2人を行かせてしまった。最後の登りフィニッシュで足の違いを見せつけたファンチェルがステージ優勝と総合リーダーをさらっていった。結局序盤の6人の逃げに入った2人が最終局面でも前でレースを展開したのだ。強い。
JCL TEAM UKYOはガリッボが集団の先頭を獲りステージ3位。彼もまた序盤の逃げに入ったひとり。本格的な総合争いを前に、チーム力の高さを見せつける形となった。ファンチェルのオールラウンドな走りは、そのまま総合優勝をさらっていきそうですらあるが、それでもチーム関係氏によると、富士山ステージでライバルたちを圧倒できるかは未知だという。だからこそ、いなべでタイムを稼ぐ必要があった。そして次の機会は飯田ステージになる。
「富士山で決まるだけのレースじゃあ、面白くないでしょう?」と氏はニヤリと笑った。策士である。
そういえば、コース脇のカカシだが、大谷とトランプがいただけだった。両名とも昨年に続いての延長出演。どうやら世界には今、「顔」があまりいないらしい。
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この旅では、車窓から美しい田んぼがよく見える。
レースを終えて、翌日のスタートの地である美濃市まで移動する。今日も気分転換と運動を兼ねて、ブロンプトンでライドに出かけるのだ。昨年も走った美濃だが、レースコースへは行かなかった。だから今年はそのほとんどを走ろうということで、一周21kmのコースの大半を走ってみる。
KOMポイントはゆるやかでブロンプトンでもあっというまに登ってしまう。そして下りからフィニッシュまでは流れるように速い。これではなかなか逃げ切りは難しそうだ。実際にレースコースを走ることで深まる理解がある。
スタート地点の「うだつのあがる町並み」は観光地だが、いつもこの夕方に来ると静まり返っていて、却って心地よい。夕日の色が差し込むと町並みは一層美しさを増す。あのスタート時の混雑が今は想像できない。
夕方の時間を河原で過ごす人たちがちらほらいる長良川。イスを出して読書をしている人もいる。町並みもいいけれど、こうした土地の人達の日常を覗かせてもらうのも、旅の歓びである。たっぷりと水を湛えた長良川の流れを橋の上から見ているだけで、なぜか幸せな気持ちになる。
この日のライドは30kmほど。よく走ったし、今日も速かった。
滞在先のシティホテルは昭和を色濃く残している。その最たるものが1Fの食堂で、昨年は夕食をそこでとったのだが生憎この日は多忙のため提供が遅くなるという。あきらめて隣の懐石料理屋へ。いろいろと手の込んだ食べ物が出てきて、それなりに満たされたが、自転車にたくさん乗った後では、小洒落た食事よりも白米をたっぷり定食で食べたいとも思うのだった。来年は予約してでも、薄暗く昭和だが誠実なホテルの食堂で食べることにしよう。
ライド終わりに近くの釣具屋に立ち寄った。ここは鮎のメッカ。見たことがないほどに鮎釣り用品で埋め尽くされていて、息をのんだ
今日の地酒は「美濃菊」。1合を三人でちびりちびりと。
帰りがけに買い物をしたドラッグストアの店員さんにいたく辻啓が気に入られ、そのことをいじると「どうせブログに書くんだろう」と言うので備忘録に書いておく。もてもてです。お兄さん
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Tour of JapanのInstagram
※同僚の辻啓・S子さんの写真をアップしています