Arenberg 主筆の小俣は日本最長のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」に大会広報チームの一員として8日間帯同中。昨年に続いての旅、ステージレースならではの移動しながらの日々とロードレースを絡めた書き物ができたらよいと思っていたこともあり、とりとめも無く書き留めてみます。
***
5月19日(月)
TOJの朝は早い。7時すぎに出発。昨夜の出来事が嘘のように快復していて、本人のみならずチームの誰もが明るい気持ちになる。やっぱり大事なものは健康である。普賢寺へと向かう道のりで、昨年と同じように側道に入ってしまい、昨年と同じようにUターンをしてバイパスへ戻る。1年というスパンはあっという間のものに感じもするが、細かな記憶が失われるくらいには長い時間でもある。
スタート地点の普賢寺ふれあいの里も、多少の記憶はあるものの、細かなところは覚えていないのだった。この辺りはお茶の産地だと知らせる看板があったが、それは昨年も見た記憶の無いものだ。せっかくなのでお茶でも買っていきたいと思ったが、時刻は朝の8時。道の駅のお店もまだ開いていない。
スタート地点のチームテントの雰囲気も、国内レースのそれだ。この日はスプリントが想定されるということで、岡本隼(愛三工業)、今村駿介(ワンティNIPPOリユーズ)、ドゥシャン・ラヨビッチ(ソリューションテック ヴィーニファンティーニ)に話を訊く。インタビューの応答で知ることのできる情報は多くはないけれど、その選手がどんなことを考えているか、その一端が伺えて興味深い。
スタートを見送ってからフィニッシュ地点へ。会場となっているけいはんなプラザ周辺のエリアに来るのはこれで3度目か4度目になるが、どこか日本ぽくないと毎回感じる。ヨーロッパとも違っていて、直線的で無機的な道の佇まいは、いつか訪れた韓国を思わせる。京都と言われて即座にイメージする雰囲気とは異なるが、TOJに通い続けていると、これが京都になっていくのだ。
昼食。バードカフェというもう10年も話題にのぼることのなかった名前が思い出された。
100kmちょっとで2200mほど登るのだから、結構な登坂もあるステージだが、京都はたいていの場合集団スプリントで決着する。コースを一周、メディアカーで走ったのだが「こんなに登るのに集団スプリントか……」と思う。ジロとかツールで、スプリントステージと呼ばれるコースの見え方もちょっと変わるというものだ。
メディアのテントが歩道に面していることもあり、気づいてくださった幾名かの方にお声がけをいただく。いずれもポッドキャストや書籍の活動を知ってくださっている方々で、ただただありがたい限り。励ましの言葉とともに、差し入れもいただいてしまった。京都のお茶であった。ちょうどスタート地点でお茶のことを考えていたのだから、なんというめぐり合わせだろう。水出しで飲めるとのことで、ステージレース帯同の最中でも飲めるようにという心遣いもありがたく受け取る。
結局レースは集団スプリントになり、単騎で立ち回った岡篤志が他を圧倒するスプリントで勝利した。真横から最後のスプリントを見ていたが、重いギアを踏み倒すその走りは独特で、しかし速かった。レース後のインタビューではさばさばした表情で「残り距離を見て踏んだので、後ろに入られたけれどギリギリにはなりませんでしたね」と言う。これでステージ4勝目、それもすべて違うステージだというから、その多才ぶりとレースを読む力の卓越ぶりが伺える。
***
ステージレースだから、選手だけでなく関係者もみな次のステージへと進む。
フォトグラファー2人とライターを載せたメディアカーは一路三重へ。車内でも記事を書いたり、写真の整理をしたりと忙しない。ちょっと車窓の外に目をやれば、見たことのない田舎の町並みや風景が広がっているのだけれど、それをじっくり楽しむほどの余裕はない。ただ奈良の街を通った時に車内は沸騰した。鹿があちこちにいる。おお……、奈良だ。
今年は昨年と異なり、コンテナホテルに初宿泊。宿の形態もいろいろある。持ってきたBromptonでライドをしようと辻啓と走り出す。10日ほどあとに富士ヒルクライムという大会を控えた身として、TOJ期間中もなんらか自転車には乗っていたいということで折りたたみ自転車を持ってきたのだった。特に練習をしているわけではなく、また富士ヒルはお仕事のために行くのだが、ある程度のタイムで登れるのなら走ってもよいと主催者に言ってもらっているので、ある程度のタイムで走り切れるようには準備をしたいのだ。
事情を知っている辻啓が近くの峠道を探してくれた。石榑峠という、初見では読めない地名の、三重と滋賀とを結ぶ峠道へ行くことに。最初からペースが速く、おおよそBromptonでするべき走り方ではなかったが苦しみながら5kmほどの峠を走り切った。しかしこの自転車は、乗れば乗るだけ好きになる。宿に帰着して16kmほど。これがヒルクライムの役に立つのかは疑問の余地があるけれど……しかしいいリフレッシュであった。
夕食は宿の向かいの居酒屋。大会関係者にはお馴染みの店らしく、安く、美味しく、店員さんの感じも良くよい時間だった。なるべく地酒を飲む、という横断旅行ならではのテーマを掲げ、「宮の雪」という四日市の酒をいただいた。食べたもの、ホタルイカ、冷奴、ポテトフライ、カマンベール揚げ、メバルの煮つけ、冷やしトマト。こうして書き出してみると正統な居酒屋メニュー。
この夜の話題は、明日のカカシは誰か? というもの。いなべステージには毎年著名人をかたどったカカシが沿道で選手を待つのが恒例で、大会関係者はそれとなく楽しみにしている。昨年は大谷翔平だった。では今年は? 考え始めると、意外と「今年の顔」のような人が思い浮かばない。大谷の家族が増えているんじゃないかとか、イーロン・マスクじゃないかとか、色々意見は出るがしっくりこない。しまいには米俵とか言い出す始末(もう人間ですらない。人間の形をしていなくてもカカシというのは成立するのか?)。某フォトグラファーは、広末涼子の名を挙げた。おいおい……(しかしそれでひとしきり盛り上がってしまうところに、80年代生まれ世代の宿痾があるとも思わされるのだった)
明日はいなべステージ。
***
Tour of JapanのInstagram
※同僚の辻啓・S子さんの写真をアップしています