Arenberg 主筆の小俣は日本最長のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」に大会広報チームの一員として8日間帯同中。昨年に続いての旅、ステージレースならではの移動しながらの日々とロードレースを絡めた書き物ができたらよいと思っていたこともあり、とりとめも無く書き留めてみます。
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5月22日(木)
広々と快適なルートインを出て、スタート地点へ向かう道すがらに渡ったのは天竜川。大阪で始まり内陸部を進むこの旅は、常に水田と大河が近くにある道程でもある。ロードレースはとかく「山」と紐づけて語られがちではあるけれど、線で見た時に川は面白いのではないか。ロードレースを川という地理的観点で見てみるということ。
飯田ステージのスタート/フィニッシュ地点は小学校にある。関係車両の駐車は校庭をお借りするのだが時刻は朝8時。ちょうど車を停めると、キンコンカンコンと懐かしいチャイムの音が聞こえ、「みなさん、おはようございます」と朝の校内放送が始まった。こんなのあったな、と懐かしく思っていると(いちおう教員免許を持っているので放送を聞くのは10数年ぶりである)、「本日はTOJがあるため、放送が聞こえづらい時間があるかもしれません。みなさん、時計をよく見て行動しましょう」という注意も放送された。
日常にお邪魔してしまってすみません、という気持ちと、「TOJ」という略称で認識されていることにこの地でのレースの定着ぶりがうかがえる。聞くと飯田でのステージの初開催は2005年。実に20年も開催されていることになる。今日も沿道にはたくさんの子ども達がいたが、20年も経つともはや親世代である。ひとつの地で継続的に開催されるということは、そうやって人生の記憶と結びついて土地に定着しているのだと思わされる。
飯田ステージの大会実行委員長がふらりとメディアテントにやってきて、20年前の話をしてくれた。自身は自転車のレースのことなど何も知らず、初めての開催時には大枚をはたいてオーロラビジョンを設置したこと。スポーツイベントだからそれぐらいは当然だろうと思っていたら、TOJでそんなことをやっていたのは東京や大都市のステージだけだったと知って腰砕けしたという。けれども飯田では今日までオーロラビジョンを会場に設置するならわしになっていて、訪れた人は大画面でレースを観ることができる。
そんな文化もあってか、飯田には自転車乗りが多い印象がある。かつてお世話になった方も自転車乗りで、この日もライドしていらしていた。つかの間の再会を喜ぶ。氏のサイクリングキャップは10年以上前のTOJで、Rapha Condorというチームが出場していたときに選手のサインをもらったもの。飯田ステージのために、おそらくはこの1年に一度たんすから引っ張り出されるであろうキャップ。昨年に続き、この日も氏のヘルメットの下にあるのを見て嬉しくなった。
標高の高い飯田ではあるけれど、この日も暑かった。海外選手は事あるごとに暑さというファクターを口にしている。そして今日もJCL TEAM UKYOが勝った。しかしどこかフィニッシュ後にぎこちない感じが映像を通して伝わってきて、チームカーまで様子を見に行く。プロの世界への切符をかけて「誰もが勝ちたい」チーム。ぴりぴりするような緊張感があるが、そうした中で勝ち抜かないとその先はないということでもあるのだろう。勝ってなお浮かれた空気にならないところは、痛切でもある。
レース後は富士山ステージに向けて御殿場へと出発。今大会で最長の移動となる。中央道は慣れた道である。というよりもこれは八ヶ岳南麓の自宅へと向かう道であって、毎度のことではあるが素通りするのが不思議な気分になる。帰宅はしないが、途中のSAまで妻に来てもらい不要になった荷物を預かってもらう。この先もうスケジュールとロケーション的にブロンプトンに乗ることもできなさそうなのでここでお別れする。家族の顔を見て、ちょっとほっとした。
明日のステージの舞台は富士山。こうして見ると、すごいところでレースをするのだと思わされる
御殿場は昨年と同じ宿。チェーンのビジネスホテルではなく、ローカルのビジネスホテル。味わいがあっていい。夜ご飯はこちらも昨年同様に台湾料理。レースも後半になってきて、日々の業務はある程度ルーティン化してくるが、その間に止まってしまっていた他の仕事に手をつけるタイミングでもある。みんなフリーランスであるから、のんびり夜ご飯、という時間が無くなってくるのもこの後半戦。それでもメディアチームの全員で卓を囲み、その日のレースでそれぞれにどんなことがあったかを語る時間は大切なもの。たぶんここには来年も、早くて楽しい夕食をとりに来るのだろう。
フランス帰りのS子さんのTシャツはSuperdry。3日前に、日本人でSuperdryのTシャツを来ている人を初めて見た、と言ったらそれから3日間、違うSuperdryのTシャツで夕食に現れた。ビールもたまたまSUPER DRYだった。最近はあんまり「極度乾燥」してないようだ(しなさい)。
天津飯というのは宝石のように見えることがある。そして3/4ほど食べ進めると飽きる。
飯田が終わると、TOJが後半に入ったという実感が強まる。旅はあと3日。
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飯田ステージのレースレポートを書いています
Tour of JapanのInstagram
※同僚の辻啓・S子さんの写真をアップしています