ストラーデ・ビアンケ・ドンネ 2025
女子ストラーデ・ビアンケ2025年大会を終えての、3つの論点。
勢力図の変化 第一回目
今シーズンほど、女子プロトンのビッグネームの移籍が相次いだ年もそうそうないだろう。女子ロード界現役最強選手の一人デミ・フォレリングのFDJ移籍を筆頭に、最強を誇ったSD-WORXから多くのエースクラス選手が他チームに流出し、一方で監督のアンナ・ファンデルブレッヘンが現役復帰、さらにはMTB XCO五輪金メダリストにして4種目で世界チャンピオンになったポーリーヌ・フェランプレヴォの2018シーズン以来のロード復帰と話題に事欠かない。すでに豪州、中東からシーズンはスタートしていたが、このストラーデ・ビアンケこそが真の意味での開幕であり、今年の女子ロードレースシーンの勢力図を把握する最初の機会となった。
結果としてフォレリング優勝、ラブースが4位に入ったFDJスエズの完勝となった。終盤にかけてムジークの動きも十全に機能した。今年のFDJは強い、という印象をもたらしたが、一歩引いてみるとチームが誇るトリプルエースを全員投入、ならびに他の選手たちも一軍ばかり(丘陵系レースとしてはシャベイ/クラークを入れるかどうか)という、ほぼベストな布陣であったことも鑑みる必要があるだろう。とはいえ、新規加入のフォレリングとラブースが強力な走りで勝利を掴んだことは他チームに対して大きなメッセージとなる。復帰組のエースが及第点の走りを見せたSD-WORXとヴィスマ・リースアバイクは一旦置いておくと、リブ・アルウラー・ジェイコのコレクティブとしての強さも光った。派手な選手こそいないが、例年以上に平均点の高いチームとしてまとまってきた印象がある。キャニオン・スラム、ピクニックポストNL、UAE ADQはそれぞれ期待された走りは見られなかった。勢力図の変化を捉えるにはヨーロッパ初戦は早計だが、まずはFDJが今シーズンを予告する先手をとったということは間違いない。北のクラシックが終わる頃に、第二回目を見てみたい。
10年前のポディウム?
表彰台に上がったのは、優勝のフォレリング、2位のファンデルブレッヘン、3位のフェランプレヴォ。10年前に女子プロトンの先陣を切っていた選手たちが表彰台の左右を固めたことになる。このことは、近年一般的に言われる「女子プロトンのレベルが上っている」という言説に一石を投じるものになるかもしれない。少なくとも、30代の中盤に差し掛かった両者が、トップレベルのロードレースに数年ぶりに復帰して表彰台に上るということは、「上位選手たちのレベルは上がっていない」ということになる。それはつまりカッコつきで、女子プロトンの「中堅層のレベルが」上がっている、としか言えないのではないか。
現実として、中堅層のレベルが上ったとしてもファンデルブレッヘンやPFPのような突出したエースを他のチームは止めることができなかった。ただひとり、フォレリングだけが全盛期の彼女たちのレベルに到達していると思わせた他に、ストラーデ・ビアンケで2020年代の選手たちは誰も彼女たちに及ばなかった。しかしそうなると、2010年代後半の女子プロトンのレベルがいかに高かったかである。今のポガチャルのようなマリアンヌ・フォス、その後継者然としたPFP、世界女王へと上り詰めるファンデルブレッヘン、圧倒的なフィジカルを持ち始めるファンフルーテン……2020年代の前半を終えて、彼女らと肩を並べられる選手は、フォレリング、コペッキー、ウィーベスくらいだろう。
SD-WORXは弱くなったのか?
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ストラーデ・ビアンケ 2025
男子ストラーデ・ビアンケ2025年大会を終えての、3つの論点。
オフロードレーサーの優位性について
毎回このレースで言われるのは、グラベルの「白い道」を走るレースだからシクロクロス選手やMTB選手、グラベルレーサーに有利、という言説だ。もちろん砂利道を走るレースであるから、オフロードの心得はあるにこしたことはないが、勝利を左右する重大ファクターにはなっていないのではないか、というのが近年の雑感である。というよりも、今日のプロライダーたちは少なからずグラベルを走っているし、タイヤも太くなっている。「白い道」にはところどころハイスピードの下り坂もあるが、一方で下りのスキルが勝敗を明白に分けた例はそう多くない。2023年のピドコックはその少ない例だが、彼はラルプデュエズのステージを下りで勝ってもいるので、単純にオフロード云々よりも下りの速さで勝負できる選手だ。
どちらかというと、ストラーデ・ビアンケは「白い道」が象徴的であるにもかかわらず、テクニック云々よりもパワー勝負で決まるという印象が強い。ポガチャルの過去3回の勝ち方は言うまでもないが、永遠に語り継がれるであろう2021年のマチュー・ファンデルプールの怪物めいたアタックや2020年のワウト・ファンアールトの勝利もそのパワーによるもの。優れたテクニックがあってこその勝利だが、とはいえ他を圧倒するパワーを彼らがその日に持っていたことは疑いえない。
今年のレースで、ピドコックがオフロードレーサーであることが優位に働いたとしたら、それはポガチャルへの心理的な攻撃となったことだろう。レース後のポガチャルは「ピドコックは自分の分野ではないMTBの五輪チャンピオンでありシクロクロスのチャンピオン」であることを意識したと記者会見で語ったようだが、共に逃げる中でコーナーリングのライン取りの違いに、スキルセットの差を感じたはずだ。舗装路・未舗装路を問わず常にピドコックのコーナーリングはポガチャルよりもイン側をついていた。その走りが押し出す無言のプレッシャーが無ければ、ポガチャルが舗装路で落車することもなかったはずだ。しかし落車があってもレースの結果には影響しなかったことを思うと、スキルよりもパワーが勝った2025年のストラーデ・ビアンケであったのだった。
鬼門は舗装路?
ポガチャルが落車したのは舗装路の下りコーナーだった。のみならず、女子レースでもニエヴィアドマ、PFPとみな落車は舗装路で起きている。集団前方で優勝争いをする選手たちに限って言えば、舗装路で落車が起きているという印象の残る大会だった。トスカーナの丘陵地帯はぐっと登って急に下る道も多く、コーナーが鋭角であることも少なくない。必然的に神経を尖らせるグラベルと比べて、舗装路で落車が起きがちなのも故あることだろう。舗装路をどう走るかは、ストラーデ・ビアンケの見えざるマージナルゲインかもしれない。
ストラーデ・ビアンケは第6のモニュメントか?
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写真はすべてRCSスポルトの公式リリースより(photos:LaPresse)